足して10で発病

アトピー性皮膚炎に関してご紹介した本のなかに、これだけは是非多くの方に知っていただきたいと思う考えかたがありましたので、別ページを設けました。

NHK取材班編「アトピー治療最前線」から引用しました。(詳しくは参考図書の項参照)

お肌の? には、なるべく簡単にまとめた 解説を載せました。

1 「足して10で発病」の理論

今山修平医師はアトピー性皮膚炎を次のようなモデルで説明しようとしています。

皮膚の機能異常(患者自身の異常)
  1. 皮膚のバリア機能低下
  2. 汗の中の免疫グロブリンの分泌低下
  3. 皮膚表面の細菌叢の異常
  4. 表皮内のマスト細胞
  5. 表皮内の神経の増加
  6. そのほか
× アレルギー(外界からの関与)
  1. 環境抗原(ダニ、花粉など)
  2. 食物抗原(特に乳幼児で)
  3. 接触抗原(細菌、金属など)
  4. そのほか

アトピー性皮膚炎の原因は複雑であることは広く知られていますが、今山修平医師は「皮膚の機能異常」と「アレルギー」の要素が複雑に絡まり、ある水準に達したとき、病気として発病すると考えています。

いくつかの要素が点数化されたとして、ある点数、例えば10点に達したときに発病すると表現します。

これは人によっては原因も治療法もさまざまだと考えられるようになったアトピー性皮膚炎の特徴をわかりやすく捉えています。

例えば、機能異常の側面で既に9点の方であれば、アレルギーの側面で1点でも加われば発病してしまいます。(機能面が少なくても、アレルギー面が多ければ同じことです。)
逆に12~13点の方から3~4点引いて10点未満にすることが、病気を治療したということになるわけです。

3 積み木のモデル

さらに、この考え方を視覚化したのが、積み木モデルです。
多分、これはこの部分の記事を担当した佐滝剛弘氏のアイディアと思われます。

図1 アトピー 積み木モデル

(a)(b)ともにアトピー性皮膚炎の患者で、図はお二人の発病した要因を模式的に表しています。 

診察または自分の日常経験を通して、医師も患者も、発病の要因の解明に努めますが、なお不明な部分は残ります。

ですから、内容がすっかり把握できているように見えるこのモデルも外側は壁でおおわれたブラックボックスであると説明されています。

現実には要因も多く、またからみあっているので、このように単純明解なものではありませんが、アトピー性皮膚炎の特質を理解するには、良くできたモデルです。

4治療の重点

このような状況下では皮膚の機能異常の側を補正する方法、すなわちスキンケアの方がアプローチしやすく、効果を上げやすいと今山修平医師は考えています。

環境側の除去には労力がかかるうえに、効果が見えにくいのに対して、スキンケアでは10点のうち、何点かは確実に減らせるからです。

このようにスキンケア治療に重点をおくのは効果的な治療法といえますが、時間がかかるという問題点もありますので、それを克服するために、今山修平医師は次のことに特に留意しています。

  1. 医師、患者のコミュニケ-ションに力を入れ、情報を共有化する。
    具体的には診察に時間をかけ,患者に病気の全体像を伝える努力が続けられています。
  2. 治療の効果がでるまでに時間がかかるので、患者同士のコミュニケーションにも力を入れ、患者が孤立するのを防ぐ。

以上は、「足して10で発病」の理論の要点を私なりにまとめたものです。
この理論とモデルを理解し、活用するためには、この本を読まれることをお勧めします。

私はこの本を読んで、素晴らしい理論とそのモデル化と思いました。
もう少し、広く活用できるのではないかと思い、私の視点で若干、補足させていただきます。

5 モデルの意義

このモデルはアトピー性皮膚炎の要因の複雑さ、個人差を上手く説明してくれますが、ある患者にとっても、季節的な変動、一寸した体調変化、メンタルな面の変動でアトピー性皮膚炎の症状が変化することの理解におおいに役立つと思います。

私はアトピー性皮膚炎の原因と対策に話が及んだ時には、このモデルを紹介していますが、わかりやすいと好評です。

ただ、医師が書かいた本では、あまり引用している例を見かけないのは残念です。

このモデルはアトピー性皮膚炎の原因と対策をわかりやすく示していますので、今山医師とは治療方針の違う医師であっても、その方針を患者に説明するのに役立つと思います。

6 民間療法の理解

民間療法が乱立する背景もこのモデルで考えるとわかりやすいです。

1点でも減少させることができれば、見かけ上は病気の状態から、正常な状態に変わりますので治療が成功したという評価になります。

それはそれで良いことですが、「だから、これでアトピー性皮膚炎を治せる」と範囲を広げ過ぎのは問題があります。

一方、一部の人にしか効果がないから、民間療法はインチキだと切って捨てるのもまた乱暴な話です。
これだけ、民間療法が、普及したのは医師が、アトピー性皮膚炎の全体像を患者にわかりやすく、説明する努力を十分に行ってこなかったのも一因と考えられます。

7 モデルの活用

私は化学のなかでも「化学工学」という分野に長く携わっていましたが、この分野では、ある理論や現象の説明方法として「○○説」とか「○○モデル」という表現方法をよく使います。

私の視点・雑感「薬の効用」のなかに私の考えた「薬のトライアングルモデル」という模式図を書きみました。(ご興味があれば「 シャンプー選び 」をご覧ください。)

医療の分野でも、「足して10で発病」の理論とか、「積み木モデル」のような表現方法がもっと活用されて良いように思います。

参考図書:
NHK取材班編 アトピー治療最前線 岩波書店 1300円+税
  • 「正しく知ることが最善の治療法」という観点から、この病気の謎と有効な治療法を内外に取材、解説した本です。
  • 第三章 アトピー性皮膚炎の有効な治療法を求めて
  •  一 アメリカでの試み
  •  二 イギリスでの試み
  •  三 ドイツでの試み
  •  四 日本での試み
    1. 九州大学病院アトピー外来で
    2. 「足して10で発病」の理論