アトピー性皮膚炎の理解

このページの作成と改定経過

シャンプーの開発に関わるようになったのは、アミノ酸系シャンプーがアトピー性皮膚炎の方に大変喜ばれていることを知ったのがきっかけです。

シャンプーの開発を進めるに当たってはアトピー性皮膚炎そのものの理解が必要と考え、数多くの本を読みました。また、発売後にはお客様から本についてお問合せをいただくこともありましたので「アトピー性皮膚炎の本」の紹介ページを作成しました。

多くの本を読んでみますと本によって重点の置き方が違いますので総合して「アトピー性皮膚炎の理解」としてまとめたのがこのページです。年々新しい本が発刊されますので数度にわたって改訂してきました。基本的なところに大きな変化はないのですが、技術の進歩や重点の置かれ方には変遷がありますので各項目で追記しました。

1.アトピーとアトピー性皮膚炎(言葉の由来と定義)

本のタイトルやキャッチフレーズで「アトピー性皮膚炎」を「アトピー」と略称することもありますが、医学的には別の言葉です。 詳しくは→ (2)(6)
アトピー性皮膚炎の全体像を把握するために大切なので紹介しました。

アトピーの言葉の由来 : アレルギーのなかでも遺伝的体質が原因で起こりやすいアレルギー反応によるものを「アトピー性疾患」と名付けたのが始まり。
アトピー性皮膚炎の言葉の由来 : 湿疹のなかでも原因や治療法がわからないものを「その他」に分類し、「アトピー性皮膚炎」と名付けたのが始まり。
アトピー性皮膚炎の定義 : アトピー性皮膚炎とは、よくなったり悪くなったりを繰り返す、かゆい湿疹をメインとする病気で患者の多くはアトピー素因を持つ。

定義のなかで「状況が変化する」ということは重要な意味を持っており、ある治療法の効果を判定する時にも大きく影響します。 詳しくは→ (7)
民間療法や特殊な治療法で効果があった場合、単なる状況変化(自然寛解と言います)なのか、治療効果なのか? 冷静に判断する必要があります。 → (12)
また、状況が変化することは、治療の目標設定にも関係してきます。

2.アトピー性皮膚炎の原因と発病

次のように大別して説明されています。 → (2)から引用。 (3)(7)(14)にも詳しい。

皮膚の機能異常(患者自身の異常) : 皮膚のバリア(防御)機能異常など
アレルギー(外界からの関与) : 環境抗原(ダニ、花粉など)、食物抗原など

上記の分類のうち、アレルギーについては原因と対策が (1)に詳しく書かれています。
種々の原因が重なりあって発病に至る状況を今山修平先生は 「 足して10で発病」という積み木のモデルで説明しています。 → (2)

治療の方針を決めるのにも参考になりますので、このモデルを是非知っておくことをおすすめします。 皆様にご紹介すると大変好評です。2004年以降の本には「アトピーコップ」というモデル(コップに各要因が入ってきて溢れ出たら発病)で説明している例もあります。趣旨は同じです。

玉置先生はこころの問題(生活習慣、こころの持ち方など)に重点をおいて書かれています。→ (13)

藤澤先生も「心の問題」を重視されていますし、「日本人の行き過ぎた清潔志向」(乳幼児期)など日常生活の中に問題点が潜んでいることを分かりやすく、具体的に指摘しておられます。 → (17)例えばドロンコ遊びを勧めています。

NPOアレルギーネットワークのNPO設立特別講演「アレルギー治療の明日」のなかでも伊藤浩明先生が1才までの雑菌との接触問題を指摘しておられました。「都市衛生仮説」といわれるものです。NHKの「ためしてガッテン」では1才までに雑菌に触れた方が、発症しにくいとしていました。(ドイツの農家での例)

2012年段階においても特に変わった説は出てきていませんが、東洋医学ではどのように捉えているについては (23)に書かれています。

3.治療の目標

治療の目標は治癒ではなく生活に支障がない状態を維持することです。 (7)など、ここで紹介した本の共通の認識です。

戸田先生は治療の最終目標は「QOL(患者の生活の質)の向上」にあると言い切っておられ明快です。 → (12)

江藤先生は日常生活とのかかわりを重視しています。→ (20)

インターネットの情報などを見ていると、漢方や自然治癒力を重視される先生は「治癒」という言葉を使われることがあります。
この場合もQOLが高く維持されている状態を「治癒」と表現されているとも言えますので、QOLの向上と言う視点で見れば同じことのように思います。

ただ、民間療法でよく出てくる「体質から変えなければ」などと言う場合は既存の治療法を否定するために使われることがあり、アトピービジネス(高額の費用がかかる)であることが多いので注意が必要です。

2012年の段階で見ても基本的には変わっていません。だだ、遺伝子レベルでの研究は進んでいますのでいずれ治療の目標も変わってくると予想されます。

4.ステロイド外用剤、その他の薬剤

ステロイド外用剤の使用を推進しておられる先生がた(優先順位などでは違いはありますが)の本を中心にここでは紹介しました。(脱ステロイドと言われる場合も、ステロイドの即効性を認めた上で、何を優先させるか考える対処法と理解した方が良いと思います。)

免疫抑制剤タクロリスム軟膏なども→ (6)(7)(8)(10)で解説されていますが、新しい薬ですので発行年度の新しい本ほど詳しく書かれています。 → (9)

従って2004年8月追加した本の (13)以降にはさらに新しい情報が生かされています。
特に (14)が詳しい。 (20)では実績を踏まえて、さらに具体的になっています。

2011年11月の改訂では (22)(25)(27)を加えました。特に (25)は薬剤師の立場から書かれた本で、薬剤とその使用法について詳しく知りたい方にお勧めです。

5.日常生活の注意

ほとんどの本に書かれており年々詳しくなっている感じで2011年11月改定ではスキンケアが中心となっています。日常生活の注意事項は多々ありますので整理してみますと次のようになると思います。

目的意識:
(6)は成人のアトピー性皮膚炎が対象であるため、「自分で治す」という責任感、目的意識を確立すること。 それが、アトピー性皮膚炎に克つ基本です。という医師の思想が貫かれています。その上で副題が “日常のケアと正しいクスリの使い方” となっているだけに詳しく、わかりやすく書かれています。
一般のアレルギー対策:
(1)(11)(26)(27)に詳しく書かれています。
スキンケア:
ほとんどの本で触れていますが、特に (1)(6)(21)(25)(28)(32)に詳しく書かれています。
(1)の須貝哲郎先生、 (6)の戸田淨先生は化粧品の安全性についても著名で、化粧品やシャンプーの選定についても詳しく書かれています。 (シャンプーなどについては、すべての先生が詳しい訳ではなく、?と思うものもありますので、両先生の書かれたものは貴重です。) (25)はステロイド外用薬の項に書いたように薬剤師が専門的な面からアドバイスしているのが特徴です。 (31)ではスキンケアのなかでシャンプーについても詳しく書かれています。
洗い過ぎ、こすり過ぎ:
次の本では洗い過ぎ、こすり過ぎに特に注意するようにと指導しておられます。 → (1)(3)(6)。「私の視点・雑感」でもこすり過ぎ、洗い過ぎ、というページを設けています。
化粧:
お化粧まで含めて、生活を楽しくすることに重点を置いているのは(20)です。
掻かぬが勝ち:
青木敏之先生は「治療を成功させるための10か条」の中で掻かないことが大切であると指摘されています。 → (3)
しかし、現実問題として実行するのが難しい面もありますが、2003年5月21日の「NHKためしてガッテン」では掻くことに関して日記をつけることにより「掻くこと」を克服した例が紹介されていました。 大変参考になると思います。
心の問題、生き方:
日常の注意の中には、心の持ち方や生き方そのものに係わるものもあります。前者は、7.心の問題(2004年8月改定で追加)、後者は、6 生き方(2011年11月改訂で新設)としてまとめましたのでそちらをご覧下さい。

6.生き方(2011年11月の改訂で新設)

「アトピー性皮膚炎の本」は医師が書かれた本で特定の治療法に偏らないものを選定しました。一方患者と医師がチームを組んでいる患者団体の本は医学的にしっかりした基盤を持ちながら日常生活に役に立つように書かれていますので2005年頃から意識して加えるようにしました。

これらの本は“アレルギーをどう生きるか”という本質的な問題まで踏み込んでいる魅力的な本で、書名、副書名を見ると本の意図するところがよく分かります。2011年11月の改訂では「生き方」という項目を作ってまとめました。

(11)の「アレルギーの快適生活術」に始まり (18)(19)(30)(31)です。特に (11)(18)(19)(31)を書かれた団体とは交流があり勉強させていただいています。

7.心の問題(2004年8月改定で追加)

アトピー性皮膚炎では心の持ち方も重要な問題であると私は思います。
各先生もストレスとの関係については取上げておられますが、治療への生かし方に深く触れたものは少ないです。
比較的詳しく書かれているのは (6)(13)(15)です。
(2)によれば、ドイツでは「患者を癒す心理ケア」を重視していて、アトピー性皮膚炎の治療の重要な部分を占めています。

こころの問題に特に詳しい本として (13)があります。
アトピー性皮膚炎全般の解説はありませんので、他の本で基礎的なことを知った上で読まれると、この本の趣旨を良く理解できると思います。

(15)では1つの章を設けて書かれているのが良いと思い、この本を加えました。
この本で感じるのは、自然治癒力を生かすには日常生活を自分の責任で変えて行く気概が要求されていることです。

5 日常生活の注意の項に書きましたが、戸田先生 (6)は「自分で治す」という責任感、目的意識を確立することを強調されています。

少し観点が変わりますが、 (14)では「断食療法」で効果が出る時があるのは生理的なことよりも断食という厳しい環境下で他に依存できないという自立心が症状の改善に影響しているとも考えられると書かれています。
(8)では「心理効果もある断食療法」として紹介されています。

アトピー性皮膚炎の方は現につらい思いをしておられるので、自分自身がいやになり、プラス思考になるのは大変なこととは思います。

あらゆる側面から協力しあって、これをサポートして行く必要があると思います。
スキンケアの面で、「しみる」「ピリピリする」などを軽減し、泡立ちが良くて少しでも気持ちが明るい方向に向くようなシャンプーなどを開発することが、私どもの使命と思います。

本から少し離れますが、精神的な面とアトピー性皮膚炎との関係について化粧品配合技術者の視点で書かれた貴重な情報がありますので書き加えました。( コスメ瑠璃香化粧品屋の独り言 Vol.2に書かれています。)
玉置先生もプラス思考の必要性について書かれています。→ (13)

しかし、ステロイドの弊害を過大に取り上げることにより、医師と患者の信頼関係を失わせたたり、界面活性剤をことさら怖いものと騒いで不安感を煽るなど、心ない情報が後を絶たないのは残念なことです。

8.かゆみ

アトピー性皮膚炎はかゆみを伴うことが大きな問題です。 従って、どの本でも触れていますが、かゆみについて重点的に解説しているのは (2)(3)です。
「日常生活の注意」の中であげた「掻かぬが勝ち」も参考になります。

アトピー性皮膚炎に限らず高齢化、季節的要因などで、かゆみを感じることは多いので、“かゆみ”について専門的にまとめた本 (5)を紹介しておきました。

9.民間療法とアトピービジネス

ここに挙げた17冊の本はすべて皮膚科の先生方が書かれた本ですから、アトピービジネス(高額の費用がかかる)については猛反対ですが、民間療法については、条件つきで容認している例もあります。 → (7)(8)(16)

私は「かける費用」と「期待する効果が出る確率」のバランスの問題だと思います。 (12)以降の本には民間療法にどう対応して行くかが書かれていますが、「高くないか?」を最初の判断基準に上げています。

使い始めた当初に症状が悪化した時に、良くなる前兆などとするものがありますが、早めに対処するように高橋先生は勧めています。 → (15)

玉置先生 (13)はアトピービジネスが起こる背景について書かれています。
私も大いに共感しました。(自費出版なので限られた図書館にしかありません。インターネットで入手方法を探すことをおすすめします。)

ステロイド外用剤や体質改善についての基礎知識が不足しているために「 化学屋のつぶやき」で書いた技術評論家と称する人の説に引っ掛かる愚は避けたいものです。

「薬の生かしかた」で書いたように、病気の治療は正しい基礎知識という土台が狂っていると、不断の努力も薬も無駄になって効果が出ません。

2011年11月改訂の段階では「アトピービジネス」という言葉があまり使われなくなっています。アトピー性皮膚炎のガイドラインが普及してきたのも1つの要因と考えられます。

10.子供用の本(2004年8月改定で追加)

2004年8月の改定では子供自身で読める本も紹介しました。 → (15)

バリヤ、遅延型アレルギー、負荷食試験などという専門語が出てきて、子どもに分かるかなと心配になる面もありますが、大人にとっても分かり内容となっています。
子供自身で読めるアトピー性皮膚炎の本で横浜市の図書館にあるのは2004年8月現在この1冊だけです。

アトピー性皮膚炎について思う

ここに取上げた本はそれぞれ主流をなす先生方のもので素晴らしい資料であると思います。

アトピー性皮膚炎を理解していただく上では十分ですが、さらに欲を言えば
アトピー性皮膚炎の要因の複雑さ、時間的な変化を考えれば、本来、「目的は1つ。手段は多様」であるべきではないかと思います。

しかし、実際に展開される話は「目的は1つ、手段も1つ」に偏りがちです。
ここでは特定の治療法は取上げなかったにも関わらず、この傾向があることに気がつきます。
目的は「患者のQOLの向上」にすっきりまとめられないものでしょうか?

治療も診断は皮膚科医が中心になるにしても、他の分野の医師、カウンセラー、もっと広い範囲の専門家(住環境、化粧品、化学技術者など)と柔軟に連携し、プロジェクト的に進められないものでしょうか?
日常的には医師と患者の一対一の対応になりますが、考え方としては広い視点が反映されるものでありたいと思います。

この視点がはっきりしないから、アトピービジネス(高額な費用のかかる)が広がる温床を作っているように思います。
これが生まれた背景への総括(反省)が十分になされていないように感じます。
民間療法についても、ただ批判するだけでなく、良いものは部分的に取り入れるなどの柔軟性も必要と思います。

全体的に推奨する治療法の正当性が強調され過ぎているように感じますし、悩んでおられる患者の琴線に触れるような温かさがもっと欲しいと思います。

「共に考えましょう」と呼びかけているものもあり、こう言う本や情報に出会うとほっとします。
良い例が「アレルギーの快適生活」 (11)です。
また、「アトピー性皮膚炎とこころ」 (13)も多くの示唆を与えてくれます。

インターネット上の情報

大学や専門医の組織の資料は総合的に書かれていますので、新しい薬剤など広い範囲で調査できる利点があります。
一方、個人の医院、薬局の資料は温かみがあって、分かりやすく具体的なのが魅力です。